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クリスタ登用
投稿日 : 2016/06/06(Mon) 11:33
投稿者 夜羽
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時はかつての混沌災害が起こる前。

とある日のノーザラン王宮にて。


政務室。
この日もイサーク、エカチェリーナ、ツヴェート、エレノアの四人は政務、軍務に追われていた。

そんな最中、一人の侍女が伝達に入ってくる。

「 王様 」
「 どうした 」
「 流れの魔法士の方が、こちらに仕官したいと申し出に 」

報告を聞いた王は、少し考え込んだ。

「 魔法士か……確かに、人材は喉から手が出るほど欲しいが 」

そう言うや否や、イサーク王はエレノアの方を見る。

「 エレノア、すまんがその魔法士の人となりを見てきてくれぬか、お前なら問題なかろう 」
「 御意に 」

エレノアは即答し、侍女に案内するよう促した。


案内されたのは応接室。
そこに居たのは……金髪碧眼、容姿端麗の魔法士。
外見なら、これ以上の人物も中々いない事だろう。

「 王、姫様共に政務に忙しく代理として参りました。エレノアと申します 」

エレノアは一礼をし、彼女の対面に座る。

「 クリスタ・フレンツベルグと申します。忙しいところ御足労ありがとうございます 」

彼女も優雅に、礼儀正しく返す。

「( ……なるほど。只者ではありませんね )」

直感か、それとも自身の経験からもとづいての判断かは分かりかねるが。
エレノアは、クリスタを一目見てそう判断した。

「 この度はどちらから参られたのでしょうか? 」

まずはエレノアが軽く話を切り出す。

「 コートウェルズから参りました 」
「 コートウェルズ…… 」

エレノアは自身の頭にある情報を掘り起こす。
彼女は並外れた話術師であると共に、実は優れた情報収集能力も併せ持っている。

「( 確かあの島は、ルドルフ王が倒れ、後を継いだ一人の騎兵が統一したと聞きましたが、それ以外の情報は皆無。
   ……少し調べてみる必要がありそうですね )」

現時点では引っかかる情報は少ない。そう判断したエレノア。

「 少し、考えさせていただきたい。部屋は用意させますので、結果が出るまでゆっくり滞在していただけると 」

その言葉に、クリスタは当然という表情と、意外だと言う表情が混ざった感じになる。

しかし、彼女もさるもの。
何か考えがあるのだろうと察し。

「 分かりました。良い結果になることを祈っております 」

とそれを承諾。

「 では、彼女を部屋に。私はやることがありますので 」

エレノアは、侍女にクリスタの案内を任せ自分は足早に政務室の方へと戻った。


政務室に戻ると、イサーク王が開口一番問いかける。

「 どうであったか、エレノア 」
「 人となりは上々。ですが、コートウェルズから流れてきたというのが少々引っかかるところです。
  これから少し調査をしてみます。その間は彼女に滞在を促しましたので 」
「 ……相変わらずそつがないのう。では、任せたぞ 」
「 はっ 」

そう言って、エレノアは自室へと戻って行った。
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クリスタ登用(2)
投稿日 : 2016/06/06(Mon) 11:34
投稿者 夜羽
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エレノア自室。

「 コートウェルズの資料となると…… 」

彼女の部屋は傍目から見れば普通の侍女よりも狭い部屋である。
しかし、それには理由があった。

本棚のある一冊を押し込む。
すると、その本棚は横にずれ別室への入り口が現れた。

実はこの部屋、彼女が錬金術師である宰相に発注して作ってもらったものである。

「 周辺諸国の動向は逐一集めてはいますが、あの島の事はどれだけあったか…… 」

扉を開け、部屋に入る。
その部屋は、仕分けされた膨大な資料で埋め尽くされていた。
大半は、エレノアが仕えて以来自身や密偵が収集した情報である。

「 ……これですね 」

エレノアはその中から一つの資料を引っ張り出す。



  − コートウェルズ島に関して −

 かの島は現在『 アリオト・ウィンストン 』という若武者、そしてそれに付き従うオルガノンによって統治されている。
 現在は大きな戦もなく安定した内政基盤も出来、また王自体奔放的なところがあるのかそこが民や兵には慕われている。
 よって、この国に手を出すのは容易ではない。しかし同盟国とするなら考慮に値する。
 
 追記:統一の立役者にもう一人、魔法士も居たはずだが詳細は不明。どうやら国側が意図的に隠蔽している模様。



「 ……彼女がその魔法士という可能性は高いと考えるべきですか 」

そしてエレノアは子飼いの密偵に現地調査を依頼。
かの島の王に対しての密書も持たせた。
一週間もすれば戻ってくるであろうと踏んで。



予定通り一週間後。
密偵が一通の密書を携えて帰ってきた。
早速エレノアはそれに目を通す。


 − ノーザラン国王、並びに密書の主へ
   クリスタがそちらに居ると聞いて安心した。
   我が国から彼女の名前が聞かれないのは、彼女の意向である。
   彼女がそちらに仕えたいと言うなら、良ければ取り立てていただきたい。
   我が国の救国の英雄の一人である彼女なら、間違いなくそちらの国の力となるだろう。

                          アリオト・ウィンストン −


「 ……なるほど。これは予想以上の拾い物です 」

密書を読み、安堵と歓喜の混ざった表情でエレノアは呟いた。


その翌日。
エレノアは応接室にクリスタを呼ぶ。

「 長らくお待たせいたしました。ようやく結果が出ましたもので 」
「 いえ…… 」
「 不躾ながら、貴女のことを調べさせていただきました。
  コートウェルズ救国の魔法士、クリスタ・フレンツベルグ 」
「 ……なぜ、それを? 」

驚いたクリスタに、エレノアは懐にしまっていた密書を渡す。

「 ……似合わない文ですね 」

それを読んだクリスタは、何かを思い出したのか珍しく表情を綻ばせた。

「 それで、貴女の処遇ですが。宰相の下について宮廷魔術師の一人として働いていただきたく思います。
  平時は私と共に内政に従事してもらうこともあると思いますが 」
「 はい。よろしくお願いいたします 」

こうしてまた一人。
ムルマンスク宮廷に有能な人材が集うことになる。



しかし、この後に未曽有の悲劇が起こる事になるとは……この時点では誰も予想していなかった。
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