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セアンとモルフェと昔の話
投稿日 | : 2016/10/19(Wed) 00:36 |
投稿者 | : nnmn |
参照先 | : |
個人的にやらせていただいたキャラチャの流れで、キャラ設定に関わるけっこう重要そうな話になったので、SS風に整形して公開させていただくことに致しました。
それなりに文章量があり、読みにくいかと思われますが、ご興味を持ってくださった方はお付き合いいただけると幸いです。
《読む前に知ってるといいかも設定》
・nnmnのPCセアン及びレナートは血の繋がった兄弟。ただしレナートがアカデミー入学時に師匠の魔法師の養子に入ったため、公には縁が切れている。
・セアンはレナートと仲悪い。
・モルフェはレナートと仲良し。
・セアンとモルフェはそこそこ仲良し。
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投稿日 | : 2018/05/04(Fri) 04:36 |
投稿者 | : chocolate |
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投稿日 | : 2018/05/03(Thu) 19:13 |
投稿者 | : chocolate |
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Re: セアンとモルフェと昔の話
投稿日 | : 2016/10/19(Wed) 00:47 |
投稿者 | : nnmn |
参照先 | : |
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ペルミからノーザラン国土全域へと広がる大坑道──その道中に存在する酒場の一角。
賑わう店内の一歩奥まった場所で、二人の青年が杯を傾けつつ談話に興じていた。
「思ったその瞬間に 今こう思ってる! って言葉に出来ると楽だぜ すごく」
「そうだろなぁ」
表情豊かに話を続ける銀髪の青年に、対面に座る茶髪の青年が相槌を返す。
前者はパラナに身を置く投影体のモルフェ。後者はノリリスク領主であるセアン・プロトルーデン。両者ともこのノーザランにおいて重鎮と呼べる存在だが、今は周囲の喧騒に紛れ、立場を忘れたように自然な佇まいで居る。
二人が交わす内容は、セアンからモルフェへの質問や相談とその答えが大半を締める。しかも、投げかけるのはもっぱら抽象的な事ばかりだ。相手がそれに飾り気なく答えてくれる彼だからこそなのかもしれない。
「嬉しい、とか 楽しい、とか 言うともっと幸せになるし。 悲しい、とか 寂しい、とか 言うとストンって落ち着く」
モルフェは綴る言葉に合わせて表情をコロコロ変えつつ続ける。
「自分の感情を認めて受け入れる事 だって」
そう締めた後に、受け売りだけど、と付け加えた。
「あー……そうだってな」それを受けるセアンは冴えない表情で髪を掻く。「よくわかんねぇんだよなぁ」
「自分が今どう思ってるかが?」
「多分、そうだ」
「あー」
首肯するセアンに、モルフェは眉を下げて相槌を返す。
「いやわかるんだよ。わかるんだけどたまにわかんねぇんだよ」
セアンは呟いて深い溜息を漏らした。対して、モルフェは諭すように言う。
「そういうのがなんかこう、"もにょる"感じだと思う」
「あー、さっき言ってたのか。理由が説明できないけど嫌とか、理屈はわかるんだけど納得できないとかいうやつ」
それにモルフェは頷きを返して、
「ひらき直って もにょってるんだけどこれは何だ って聞いちゃうのもアリかも?」
「おお、なるほど」セアンが納得したというように手を叩く。「そっか! そうすりゃいいのか!」
「まあ信用できる人にだけにしとけよっとはいっとくけど」
セアンの反応に笑みを漏らしつつ、またモルフェが続ける。
「どうしてもそういう人が近くにいないタイミングだったら、自分で順番に言ってくのもいいらしいよ」
「順番に……」
「基本的に良いことだともにょらないから。 悲しい、とか、寂しい、とか、苦しい、とか、疲れた、とかになるだろうけど。そんな風に。
で、言った直後に あ、これだ ってなったらそれ」
「なるほど」
自分なりの感性で綴られるモルフェの説明に、セアンはうんうんと頷いて相槌を返す。
「怒ってるときとかにも有効なんだって。イライラした時っていうのかな」
モルフェはいつか聞いた声を思い出すようにして続けていく。
「怒ってるのは 悲しい とか 寂しい を隠したいから、って言ってたから 多分そっちをどうにかしないといけないんだと思う」
「へぇ……なるほどなぁ」
悲しいとか寂しいか……、と聞こえたままに反復するセアンに、モルフェはさらに付け加える。
「あとなんだろな ずるい! とかね」
そういった"隠したい何か"が潜んでいるんだ、と。
「ずるい、かー……」
その言葉にセアンは視線を外し、宙空にやる。
「……今まで怒らせたやつもそんなんだったんだろうな」
セアンの呟きを知ってか知らずか、モルフェの言葉は続く。
「俺はこんなに我慢してるのにお前ばっかりそういう事してずるい! ……って、なかなか言えないじゃん?」
いたずらっぽい笑みを浮かべるモルフェに、セアンがつと視線を戻す。
「んー……それさぁ」へら、と腑抜けた笑みを浮かべ、「もしかして俺へのあてつけか?」
「──へ?」
Re: セアンとモルフェと昔の話
投稿日 | : 2016/10/19(Wed) 00:45 |
投稿者 | : nnmn |
参照先 | : |
あっけに取られるモルフェに、セアンはへらへらと続ける。
「あいつにめちゃくちゃ言われたんだよ」
レナート。
その名を告げる口元には、やはり笑みが浮かんでいるが。
「……」
裏に潜む感情を察するのは、彼らの関係性を知るモルフェには容易なことだった。
「まじかよ、えっ ごめん知らなかったけどなんか触れちゃいけないこと言ったっポイ?」
「ん? あー……いや、そんならいいんだワリィ」
無意識から発せられた言葉だったことに気づき、セアンは首を振って謝罪の言葉を零す。
「んー……そっか。お前いろいろ聞いてんだと思ったんだけどな」
やっちまったかなぁ、わりぃなぁ、と続けられた。
それにモルフェは気にしてない、と返す。
「あんまし話してくんないなあ、そういうとこは。 なんか馬が合わないみたいなことは聞いてたんだけど」
「あー……あいつらしいっちゃらしいな」
セアンが納得したように何度か頷き、
「お前さー、あーそういやこっち来たのつい最近だよな」
「うん、ホント最近もいいとこ」
「じゃあ知らねぇよな。ノリリスクのこと」
そう言って椅子に座り直し、モルフェに視線を合わせる。
「聞いとくか?」
「んー……」
数秒悩んで、決心したようにモルフェが答える。
「大まかな歴史というか、当り障りないとこだけ聞く」
「ん、わかった。つっても俺話すの下手だからそこはかんべんしてくれよなー」
「全部聞いちゃったら ずるいじゃん?」
笑みを浮かべるモルフェを見て、セアンもまた安堵したように頬を緩める。
「……へへ、ホントお前のそういうとこ、いいよな」
「さんきゅ」
「あいつに直接聞いて返って来るかは、俺は期待しねぇ方がいいんじゃねぇかと思うけど、お前相手ならわかんねぇしなぁ」
「まあそれは話してくれるまで待つ方向で。気は長いからねー」
「そっか」
ひとつうなずきを返して、それ以上はとやかく言わず。
「んで、まー。あれ何年前だっけな。8年か……いや7年か」
ぽつりぽつりと、セアンが記憶の糸を辿り始めた。
「その頃は親父が領主やっててさ、まー俺は聖印持っててもただのガキだったわけだよ」
「若かりし頃ってやつか」
空いたグラスに酒瓶を傾けつつ語るセアンの姿を目に入れつつ、モルフェはじっと耳を傾ける。
「そうそう。んで、親父と一緒に海出てさぁ……あれどこ行きだったかな。ムルマンスクか。まあしばらく乗ってたんだよ」
と言ったところでセアンははたと気づいて、
「えーっと、あー、災害起こる前はノリリスクとムルマンスクってああはつながって無くてさ、今溶岩だらけになってるとこが海で、ペルミの方が陸で、こう」
言いつつ宙空に指で図を示しだす。
「こういう感じで、ここの間を船でだな」描いた図の中で指を移動させ「まあ行ってたわけだ。んでこのへんだったかなぁ」
「ほへぇ 地形まで変わったとは何か聞いてたけどだいぶなんだな」
「おう、だいぶ違うんだぜ。気になるなら先生とかに地図見せてもらうといいぜー」
「で、だ。この辺に来た時に、急にみんな騒ぎ出してな。そんとき夜だったから俺寝てたんだけど……。すげぇ音すんなと思ったら船がきしみだしてさ、あわてて甲板に出たら、波の向こうになんかでけぇやつがいたんだよな」
「うぇ それやばい奴じゃん。 そんで?」
緊張感のある展開に、モルフェはこらえきれず先を促す。
「おう。ヤバかったぜ。つっても俺もそんな覚えてねぇっつうか、へりだかどっかに叩きつけられて気失ってさ…………」
そこでふと口ごもり、しばしの沈黙が生まれる。
「……んー、で、気づいたらノリリスクに帰ってたんだけど」
しかし数秒後にはまた元の調子で語り始め、
「兄貴たちが血相変えて怒鳴りつけてくるわ、しかも親父死にかけてるとか言われてさ」
「―――……そっ、か」
無事でよかったな、と返しかけた言葉は、そこまで聞くと出せなくなった。
Re: セアンとモルフェと昔の話
投稿日 | : 2016/10/19(Wed) 00:42 |
投稿者 | : nnmn |
参照先 | : |
言葉を噛み殺すモルフェには気づかず、セアンは淡々と話しを続ける。
「結局親父はすぐ死んじまったんだけど、そのでかいやつって投影体だったらしくてさ。しかもずっとそこに居座ってるとか言うんだよ。
あれどうすんだって国中大騒ぎでさぁ、俺とレナートだけ置いてけぼりだよ。……ああ、レナートは聖印継ぐ前だったんだ。年が10になってねぇから」
「あー……」
「しかもだぜ、親父の葬式終わったと思ったら占い師のばーさんが……あのバケモン倒したやつが領主だとか、予言が出たとか言い出して……まー、それでどうにかして倒すしかねぇってなったわけだよ」
「タイミングがなんとも神がかってんな…まあ占いってそういうもんかぁ」
「変な話だよなー」
モルフェの呟きにはへらへらと笑って返す。
「最初は……ああそうか、ヘンリクが行ったんだよな。けどダメで……あ、ヘンリクって一番上の兄貴な。こないだ会ったろ上三人にも」
セアンは指を上方に差し向けつつ補足をいれる。セアンには三人の兄たちが居るのだ。
「まーそんなこんなで落ち着かねぇってんで、俺とレナートだけエーラム行く話とか出てたんだけど……ああこっから先はあいつに任せたほうがいいか?」
その質問にモルフェが頷いたのを見て、セアンもまた頷きを返す。
「まあ、そんなこんなで色々あったんだよ」
「ん」
締めの言葉にモルフェは再度頷いて了承を示す。
「色々あって、セアンが領主やってるってことは その化け物倒したんだなってとこまではわかった」
「うん、まー、そうだな」
モルフェの言葉に、セアンは鈍い相槌を返す。
「それが何年だっけ……」視線を遠くにやり、記憶を探る。「3年、くらいか」
「―――…?」
精彩を欠いたような様子に、モルフェは首をかしげた。
「自分が領主になった時ってなんかこうもっと思い出深いもんかと思ってた」
「いや、まー。そりゃ思い出深いもんだろうけどさ」
返る声にはやはり鈍さがある。
「まあ、親父さんが亡くなってのドタバタの後だから、悲しい思い出なのか」
「そうかもなぁ。……あー」
へらへらと笑い返すセアンだが、ふと気が変わったように言い直す。
「いやよくわかんねぇんだ」
「わかんないのか」
「自分が何したかは結構覚えてるんだけどさ……何使ったとかどこ狙ったとか」
「うん」モルフェが頷く
こうして狙ってさ、と身振りを交えて記憶を語ろうとするセアンに、モルフェは自分が思いついたことを素直に口にする。
「なんだろ。挑んだ時って、ただ親父さんの仇取ろうと必死だったとかそんな?」
ありきたりな発想で導き出された一言。
しかし、それを聞いたセアンがピタリと動きを止めた。
「………………」
その顔からは笑みが失われ、瞳は何かを探るように細かく揺れている。
「……俺、」
「────」
何か奥深い部分に触れたことを悟ったモルフェは、ただ静かに、セアンの様子を伺う。掠れ途切れた言葉の続きがあるならば、それを邪魔してはいけないからと。
やがてセアンの手がゆっくりと自身の頭に添えられ、ぐしゃりと髪を握りしめる。
「……俺何考えてたんだっけ……」
ポツリと漏らした直後、頭を振って、
「いや、そうだよな……たぶん敵討ちだよ、うん。あと誰かが倒さねぇと結局やべぇし」
うんそうだった、そのはずだ、と続けられる言葉に、モルフェがため息を零す。
「無理に合わせなくていいぜ。多分ってことは、まだもにょってるだろ」
「うーん、あー。そうかこれがもにょか」
もにょ……。確かめるように反復する。
「思い出すとつらいとかなら聞かねーけど、そうでないなら答え出るまで付き合おうじゃねーの。 色々聞かせてくれた礼だ」
「……うーん……」しばし考えるが、首を横に振る。「つらくはねぇと思う」
「ん。ならちょっと掘り返してみるか」
「多分敵討ちだと思うけどなぁ? ……親父死んだのは悔しかったし」
「うん。大事な家族だもんな」頷いて、「不甲斐ない兄貴たちだしょうがねえおれがやってやらあ!って感じじゃなさそうだしさ その様子だと」
「兄貴は……うん、兄貴たちはよくやったよ」
言いながら、セアンは視線を遠くにやる。
「……どいつもこいつもすげぇ疲れてそうな顔してたなぁ」
そしてまたモルフェに視線を戻して、
「ヘンリクとかさぁ、見たろ? 髪とか髭とか真っ白なの。あれでも30くらいなんだぜ、年」
言われてモルフェは、プロトルーデン家の長兄の姿を思い返す。その外見はどう見ても50歳前後といったところで、口元に称える髭や髪は薄灰色に染まっていた。
「まじか。結構歳離れてるのかと思ってた」
「えーっと、ヘンリクが30でカスパルがその2つか3つ下で、ヴァルターが俺の4つ上だな。たしかそうだった」
Re: セアンとモルフェと昔の話
投稿日 | : 2016/10/19(Wed) 00:41 |
投稿者 | : nnmn |
参照先 | : |
「なんかさ、その投影体が放つ光になんかあるらしくてさ」
「うん…? うん」
何だろうかと耳を澄ませるモルフェに、セアンが顔を寄せる。
「俺の目さ、レナートと違うだろ」
そう言って自分の目──色あせた薄灰色の瞳を指し示す。
「戦ってる間に色変わっちまったらしいんだよ」
「あ、ほんとだ なんか灰色っぽい」
普段はゴーグル越しで、ほとんど注目することもなかったため、モルフェはここで指摘されるまで色の違いに気づかなかったようだ。
「だろ? ほんとはみんなレナートとおんなじ色してたんだけどさぁ」
「そっかー なんか勿体ねーな。宝石みたいな緑色なのに」
モルフェの言葉にセアンはありがとな、と言い置いて、視線を遠くにやる。
「たった4年だか5年だかいない間にさぁ、真っ白になっちまってるんだぜ。ビビるよなぁ」
「ビビるだろうし、ショックだと思う」
「ショック。ショックなのか」
「だってさ、大事な家族が目に見えてどんどん弱ってくわけだろ……」
「弱ってく、ってか…………。その間全然知らねぇから、その言い方なら弱ってた、だな」
そう言ったところでセアンがはたと気づいて、
「あー、俺しばらくノリリスク離れてたんだよ。例の投影体ぶっ倒すためにさぁ、修行してた」
「あ、なるほ。そういうことか」
遅れた説明を聞いてやっと、モルフェは時系列を把握できた。
「十分強くなったと思ったから帰ってきて、殺りにいって、まあなんとかなったわけだ」
「倒すために修行してたんなら、倒すことが最初っから目的ではあったんだろうなあ。……でも、なんで倒そうと思ったのかが微妙?」
「……うーん…………」しばらく悩む素振りをして「いや、仇討ちだろうけど」
それ以外に思いつかない、と言った様子で口に出した。
「別に領主になろうと思ったわけじゃねぇし」
「その状況で領主になりたいから挑むって相当な野心家だと思うぜ」
モルフェが冗談めかして笑う。
「ヘンリクは多分、そのつもりだったと思うぜ。長男だし、なんだろなぁ、そうしなきゃなんねぇって思ってたろうし」
「あー。責任感みたいな」
「そうそう」
その話を聞いてふと、モルフェが物思いに耽る。
「父親代わりしなきゃみたいなあれか……」
脳裏によぎるのは、自らの領主と仰ぐ少女の姿──彼女と交わしたある会話。
「ん? どうした?」
セアンがモルフェの思案に気づいて声をかける。
「ん、ごめんちょっと別のこと思い出してた」
「お前もなんか考える事あるなら、聞くぜ?」
尋ねられれば、モルフェは手をひらひらと振って拒む。
「今は俺のことはいいさ。 こっちが一段落したらな」
一息ついて、気持ちを切り替える。
「んでまあ、その そのままじゃ勝てないから修行して帰ってきて。おっしゃやんぜーって思ったら兄貴たちがぼろぼろでやべーじゃんってなったと」
「なったのか」
言われるセアンは他人事のように呟く。
「いやなってないかもしれない」
「なってねぇのか?」
「ぴんときてないみたいだったから」
「んー…………なったのかもなぁ」
鈍い響きで零しつつ、頭を掻いて、椅子の背へと体重を預けた。
「ほんとびびったんだよ」
「うん」モルフェは頷いて続きを促す。
「普通さぁ、っつっても想像だけど、ガキが急に4年もいなくなったら帰ってきたら怒るだろ。てめぇ何やってんだバーカってさ」
「なるよなぁ。心配だし どこ行ってたんだ って」
「ある程度は何処行ってた何してたこのバカ今更帰ってきやがって、みたいなことは言われたけどさ……なんかさ」
語るセアンの表情に翳が落ちる。
「カスパルの怒鳴り声全然怖かねぇのな」
旅から帰った自分を叱る兄たちの声は、幼い記憶のそれと比べ随分と弱々しかった。
「なんか……ああ、あの時もにょってたんだなぁ……」
「うん」
「レナートは、まあ、エーラム行ったまんまだし」
父が死んだ際、セアンとレナートはエーラムへ送られる予定だった。セアンはそれを蹴ったが、レナートは予定通りエーラム行きの船へ乗りアカデミーへ入学したのだった。
Re: セアンとモルフェと昔の話
投稿日 | : 2016/10/19(Wed) 00:40 |
投稿者 | : nnmn |
参照先 | : |
「4年とか5年ってでかいんだよな」
しばしの沈黙を置いて、セアンはぽつりと零す。
「ガキだった俺は気づかなかったんだよ。いつの間にかそんだけ経ってた感じで」
「そりゃなあ。赤ん坊が剣の練習はじめられるようになるくらいの時間がたってるわけだから でかいさ」
「俺その間ノリリスクにいなかったんだよ」
「うん」
「……その間兄貴達何やってたんだろうな」
父が亡くなり、レナートがエーラムへ行き、自分が旅立ってからの数年間について想像する。
「だって親父死んだ時、ヘンリクはもう領主の仕事手伝ってたけど、カスパルは工房の見習いとかだったしヴァルターは今の俺より若かったんだぜ。
それがさー、親父も俺もレナートもいなくてさ、変なバケモンはいてさ、国んなかめちゃくちゃなのに」
立て続けに語り続けていたが、そこまで言ったところで声を落とす。
「……何やってたんだろうなぁ俺。何やってんだ」
うわ言のようにぼそぼそと反復し、
「あー……うん。やめようぜこの話」
「ん」
セアンが言えば、モルフェは静かに頷いた。
それを見てセアンがへらりと笑みを浮かべる。
「なんか、ごめんな」
「気にすんなって。 あんまり役には立てなかったけど」
「別にお前が俺の役にたとうとなんかしなくていいって」
セアンはへらへらと笑ってモルフェの肩を叩く。
しかしモルフェはまっすぐセアンに目を合わせ、真剣な声で言う。
「なんだろ、こう 一緒にいるとほっとする人が一緒にいる時がいいと思う。次に誰かとこの話するとしたら」
するとセアンはふと気がついたように手をたたき、
「……そういえば人に直接この話したの初めてだった」
「ぶ」それを聞いてモルフェが吹き出す。「マジかよそんな大事な話の相手が俺でよかったのか」
「誰にも聞かれたことなかったんだよ」
「むしろ中断してよかったかもな」
本人もたった今気がついたような様子に、モルフェは深いため息をつく。
「なんか棘が刺さったまま抜けなくなってるみたいな気がするから、まじちゃんと安心して相談できる人に聞いてもらえ? 悪いこと言わねーから」
「うーん……そうかなぁ」
「ただの勘だけど」とモルフェは頷き、「でも俺だって人はたくさん見てきたよ。ベッド的な意味で」
「ベッド的な意味で」聞こえたままに繰り返す。「そんな中で感じた勘だって?」
「別にベッドっつっても用途はヤるだけじゃねーんだ」
「ああ、いやそうじゃなくってな」
笑ってしまったモルフェに、セアンは慌てて首を振る。
「俺にはあんま想像できねぇから。ベッドとして人を見るってことがさ」
「あー」
そういうことかと理解して、モルフェはしばし言葉を探す。
「んーと、そうだなあ……。部屋の天井に穴開けて部屋の中みてる感じ」
「なんかそれ、趣味悪くねぇ?」
「別にそれで何か思うわけじゃないからなあ。ただ目の前を色んなものが通り過ぎてくみたいな」
「ふうん……楽しくは無さそうだな」
零れされた感想にモルフェは頷き、
「嬉しいとか悲しいとか楽しいとかも、実感できるようになったのはこうなってからだし」
自分の身体を指差して笑う。
「ああ、なるほど」
セアンが納得したように頷く。
「みてきたものは残るから、あれってこういう事かーってあとからわかることもあるし。勿論、あってるとは限らないけどさ」
「うん、まあ、物は試しだよな。なんでも」
頷きつつ言うセアンに、モルフェはもまた頷きを返す。
「うん。それで駄目なら今回みたく やっぱやめた っていやいいんじゃねーかな」
「なるほどなぁ」
それでいいのか、とセアンは納得して息をつく。そしてしばし視線を上にやり、またモルフェに合わせる。
「んー、なんだ。その、ありがとな。やっぱお前の話は参考になるぜ」
「どういたしましてー」
「また飲みに付き合ってくれよ。どこでもいいからさ。ノリリスクでもパラナでも、ムルマンスクとかどこでもさ」
そう言ってセアンがグラスを傾けると、中身はほとんど空になりかけていた。
「あー……そろそろお開きにすっか。結構時間使っちまった」
「だな。あんまり遅くなるとイルベット様が寝心地良くないベッドで寝ることになっちまう」
笑って、モルフェもまたグラスの中身を空にする。
「そうだなぁ。帰ったら夜更けになってちゃ……ん?」
耳に入った内容に引っかかる。
「お前……まさか、いつもわざわざイルベットと寝てんのか?」
「えっ? そうだけど」
──当然のような表情で返された声も、酒場の喧騒に紛れ溶けていった。
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