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狂嵐と鋼鉄の乙女(ハイル、セレイナ)
投稿日 : 2016/11/24(Thu) 14:30
投稿者 デニス
参照先
アストラハン某所。上品なバーではなく、さりとて大衆酒場でもない静かな料亭にて。麗しき金髪の女性が『本日貸し切り』と書かれた扉を潜る。
彼女こそ“鋼鉄乙女”セレイナディウス・アストライヒ。アストラハン領主ヴィルフリードの義娘にして、彼の国の重鎮でもある。
「待ち合わせをしているの」と店員に声を掛け、サファイアブルーの瞳で素早く店内を見回す。
目的の人物はすぐに見つかった。なぜなら、カウンター席でいかにも暇そうにグラスを傾けているのだから。

「すみません、お待たせしてしまいましたか?」
「いいのよ。待たされている時間こそ幸福である、とはよく言うものだから。美人なら尚更だわ」

その人物はアストラハンの客将にして、首都防衛を担当しているハイル・フォン・トリスグラスその人だった。
セレイナが彼の隣の席に座ると、すぐにグラスへオールド・ウィスキーが注がれた。

「まずは呼び出しに応じてもらってありがとね」
「いえ。少し驚きましたけれど。こういった場所にはあまり来ないもので」
「まぁ、そうでしょうね。城内じゃあ人目があるから。その点、この店は秘密厳守してくれるから安心なのよ」
「……そういった類の話なのですか?」
「ええ。その通り。いつもの言葉遣いはちょっと相応しくないな。今しばらく“俺”になっているの、他言無用で頼むよ?」

ハイルの雰囲気が剣呑なものに変わる。
いつもの軽薄で軟派な態度からの変わり様にセレイナは少し目を見開き驚いたが、直ぐに小さく頷いた。

「まずは君の、セレイナの身辺を勝手に調査したことを許して欲しい」

羊皮紙に綴られた資料をばさり、とバーカウンターへ置かれる。セレイナの生い立ちから、現在に至るまで事細かく記されていた。
投影体に領地を襲われたこと、その後は叔父が領地を治めていること、ヴィルフリードとの関係から全て。

「これは……随分と手際のよいことですね。別に隠しているつもりもありませんが」 
「俺はセレイナやヴィルと違って、正々堂々ってのに拘らない性分でね。勝つためならなんでもやる。まぁ許してくれよ?」
「政治は綺麗ごとばかりではないことくらい、知っています」
「それでいい。君とヴィルは正道を、王道を征け。影は俺が支える。『独眼の』ペルセライガ だな、セレイナの因縁の相手は」

その名を聞いた瞬間、セレイナの中の“何か”が一瞬ざわついた。
視線が資料からハイルの目に向けられる。彼の金銀妖瞳(ヘテロクロミア)の瞳は妖しく輝いていた。

「ええ。足跡は未だ辿れていませんが」
「そうだろうな。実のところ、俺も辿れていない。ありとあらゆる手段を使ってるが、未だ尻尾さえ掴めていない。竜だけにね」

からん、と氷が音を立てる。

「『独眼の』ペルセライガは俺も追っている投影体だ」
「ハイルさんも…?」
「俺には姉が居てね。俺より美しく、強く、清い人だった。俺の憧れだったよ。だが、俺の領地が『独眼の』ペルセライガに襲撃されてから行方不明さ。
攫われたのかもしれない、死んだのかもしれない、追っていったのかもしれない。それをはっきりさせるため、奴を探している」
「そうなのですね……何か目的があって滞在されているのだろうとは思っていましたが」
「表向きは『姉の捜索』 ま、そんなところだ。この国なら情報を掴めそう、と居座っているわけだ」
「覚えておきます。 『あれ』は放置していいものではありませんから、見つけたときには」

浄化する前に聞いておく。そう言葉に含みをもたせ、セレイナはグラスへ口をつけた。
熟成されたオールドの渋みは人を選ぶ。受け付けない人もいるが、幸いセレイナにとっては心地良い舌触りだったようだ。

「私にとって、『あれ』はけじめですから。
調べてご存じだとは思いますが、私の故郷はいま、叔父の統治下にあります。もともとは父が――ティルミッドが治めていた地です。
『あれ』によって滅んだところを再興したことになっています。ですが、『あれ』をこのアトラタン大陸へと投影したのだという証拠は一切ありません。
憶測でものをいう事が、政治的にどれほどの不都合化も承知しています」

酔いがセレイナの舌を滑らかに動かす。

「国自体は成り立っていますし、ノーザランと敵対する様相もまだない。現状はあちらに手を出す必要はないと考えています。
ですが『あれ』は厄災以外の何物でもありません。私はアストライヒ家の人間として剣を振るう為にも、『あれ』を倒さないといけないと思っています。
――復讐そのものが目的ではないとだけ、明言しておきます」
「お見事な推察と考察。俺も同じことを考えていたよ。君の叔父と竜は眠れる獅子、または虎の尾というわけだ。いつノーザランに牙を向くかわかったもんじゃない」

パチパチ、と小さな拍手を彼女へ送る。それはまるで、教官が出来の良い生徒の発表を称えるかのような様子だった。

「まとめれば災厄は2つ。竜の投影体、そしていずれは君の叔父」
「――― わかって、います」

言ってしまえば彼女の身内の揉め事で、多くの人を危険にさらしているのだ。

「ですから、これは けじめ です。そうでなければ、お父様に合わせる顔がありません」
「理由はどうだっていい。肝心なのは、危機を取り除くということ。俺はもう故郷を失いたくない、俺のように悲しむ人を増やしたくない」
「……家族を失う悲しみなど、味わう人が少ない方が良いですから」

2人の境遇はよく似ている。竜によって領地を滅ぼされ、家族を失い、運命の地アストラハンへと辿り着いた。

「湿っぽい話になったな。ここらで一回、乾杯しようか」
「はい。そして、願わくは ハイルさんのお姉さまが、どうかご無事でいらっしゃいますよう」
「これから俺達は運命共同体。剣と聖印(ソード・ワールド)の世に平和と、正義があらんことを」
「剣と聖印の世界……そうですね。あまり意識していませんでしたけれど、人々の笑顔溢れる世界であらんことを――」

グラス同士が重なり合い、カチンと涼やかな音色が料亭に響き渡る。

「当面はアストラハンの統一を目標にしようか。足元がおぼつかないと、上手くはいかないからさ」
「はい。またいつ災害が起きるかわからないともいわれていますし」
「そそ。セレイナは討伐や平定を優先。俺は首都の防衛を優先。いい具合に役割分担が出来る」
「頼りにしてます。私もそれほどの守護の力があればと思う事はありますけれど」
「適材適所さ。だがいずれ、セレイナにもできるようになる」
「はい。 聖印とは、自らの選んだ道に合わせて変化するものだと」

そうして何度か酒を酌み交わすと、ウイスキー・ボトルが空になる。時間も既に12の刻を回ったところだ。
セレイナがグラスを置く。

「私はまだまだ未熟ではありますけれど、これからもよろしくお願いします。また何かあれば呼んでくださいね。私から声をかけるかもしれませんけれど」 
「こちらこそ。よろしくお願いするわね。麗しき黄金百合のセレイナ嬢」

いつの間にか女性言葉に戻っているハイルに、セレイナは苦笑いしながら応える。

「相変わらずお上手ですね。ですが百合ほどか弱くはありません。鋼鉄乙女(アイゼンフラウ)の名に恥じぬように」
「おっと、そうきたわね。狂嵐でも鋼鉄の乙女は吹き飛ばすには足りない、か」
「鋼鉄卿ヴィルフリートの娘ですから」

丁寧に礼をして帰って行く彼女の背中をハイルは見送る。
金色の髪がいっそう眩しく見えるのはなぜだろうか。かれは少し酔った頭で考えるが、結論は出ない。だからもっと飲むことにしたのだった。

夜は更けていく。
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577331
投稿日 : 2018/05/02(Wed) 14:42
投稿者 choc
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808638
投稿日 : 2018/05/01(Tue) 17:43
投稿者 choc
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459099
投稿日 : 2018/01/24(Wed) 04:16
投稿者 shoe lifts
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