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水地
投稿日 : 2016/05/07(Sat) 19:48
投稿者 stephanny
参照先
 みち

 新たな活気と混沌を受け入れた街、ペルミ。
 今回の件で多数の死者と引き換えに、人、土地、更には神、と様々なものが取り込まれていった。

 領主のルフェリットは地下の整えられたドワーフ調のひときわ大きい建物の中、茶を飲みながら考えていた。
 今の自分では足りない。自分の器の中身だけではこのペルミに相応しくない。そう思っていた。
 それも当然であり、彼を彼たらしめているのはかつてのペルミであった。

 このままでは自分自身がペルミの街と対立してしまう、そのようにルフェリットは感じていた。
 強すぎる善意、及び愛で教義に忠実過ぎるがため時代に取り残される宗教家のように。
 それもまた一つの勢力として面白いのかもしれない。
 事実彼の持っている力はそのような時でも思うがままにできるだけの激しい暴力である。
 だがそれは自らの中の混沌を否定することである。
 彼は否定を好まない。

 そこでルフェリットは考える。
 街についてを。何が変わったのだろうか。
 変わったのか と問われると彼はこう答えねばならない。
 何も変わっていない。
 これは確信である。いや ペルミという街が存在する以上、人が存在する以上何も変わることはない。
 未来という軸からすればペルミという街は変わっていない。
 ならば今からまた離れ、更に深い未来から見るという目線を持たなければならない。
 それから考えると自分の持っているペルミの過去というものだけでは足りない。

 それに対してどのようにするのか。
 新たな宗教、利権、過去の歴史 それら全てを新たに取り込んでいくのか。
 時間が足りない。そして自分の器ではそれを完全にこなす事はできない。
 ならどうするか。

 そこでルフェリットは考える。
 心や概念は自由自在なものであれば別に既にあるものとしてしまえばいい。
 だがそれには自分の器では足りない。
 ならば

 借りてしまえばいい。
 先代の領主アウグストの身を構成していた混沌を。
 彼がもし今の領主であれば
「うむ、良いであろう」
 そうとだけ言っていただろうからだ。
 つまり今のこの街もただの混沌の一形態、身としては何の変化もない。
 ならば今ルフェリットに備わっている目、知恵としての混沌だけでなく、
 その身としての混沌を当然のように自分のものとして借り上げてしまえばよい。
 そしてその確信を心に纏う服のように着る。
 すると自分の内にあるペルミの街が見えてくる。
 既に存在するものなのだからあらゆる方向から見る事が出来る。
 その確信。

 過去の殻の外に 新たな殻が宿る。
 その内側で全てが融け合い、再び殻の中の身として宿る。
 見た目として存在するものは今、そして内に存在するのは全て。

 ペルミ様式の茶器を一度棚へと戻し、眺めつつ見つかったドワーフ様式の茶器で茶をいれ、
 ぐぅ と彼は飲み干す。

 そして両方の器を眺め、彼は思う
 これらの次の器は、どのような味わいをもたらしてくれるのか。

 古来より蛇は神々の、水の、使いである。
 永遠に伸び、変わり、脱皮し、そして脱皮し、飲み込む。

 ペルミの街という巨大化するみずち。
 海に沈む事で座標のみとなり、
 神と人の交わる場所となった水の土地。
 流れる水の行く先、全てへと繋がる水の道

 その深き混沌を分かりやすく形造る、ペルミ領主ルフェリット。
 彼は再び全ての事象を飲み込み、新たに形作られる。

 混沌とは全ての生まれる場所。
 全てが生まれた場所は此処にある。

 更に土に触れるようになった者達の中から
 ドワーフ様式とペルミ様式を踏まえた新たな器を生み出す者が生まれる事になるのだが、
 それはまた、次の話。
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